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キャプサイシン―体温調節への二面性
大坂 寿雅
1
1国立健康・栄養研究所 老人栄養・健康部
キーワード:
熱産生
,
熱放散
,
セットポイント説
Keyword:
熱産生
,
熱放散
,
セットポイント説
pp.695-697
発行日 1998年6月15日
Published Date 1998/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542903763
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体内で栄養素が燃焼すると熱を発生する(熱産生).一方,体表からは熱が失われていく(熱放散).一般に,この両者は協調的に調節されて体温が保たれている.例えば,寒い環境下では,皮膚の血流を減らすことで皮膚温を下げて熱放散を減少させる一方で,震えなどによって熱産生を増やす.すなわち,体温を下げる反応である熱放散が抑制され,体温を上げる反応である熱産生が促進することで体温を保つ.逆に,暑い環境下では,運動などの熱産生反応は抑制される一方で,発汗などの熱放散が増えて体温が上がりすぎないように調節される.
ところで,トウガラシを含む食品を口にすると,汗をかいたり顔が赤くなったりすることは多くの人が経験していることであろう.この味覚性発汗として知られる現象は,辛味成分であるキャプサイシンによって温かさを感じる神経(温受容器)が興奮して暑い感覚が生じるためである.体温は摂取前と変わっていないのに,"暑い"と誤認して熱放散反応である発汗や皮膚血流増加反応が起こるために,体温は下がってゆく.これまでに,多くの動物実験でキャプサイシンを経口,または皮下投与して体温に対する影響が調べられているが,例外なく熱放散の増大を伴って体温は低下している1).ところが,ラットを用いた実験で熱産生量を測定してみると,キャプサイシン投与によって増えることが報告された2).これは,体温が下がったために,熱産生を増やして体温を回復させる反応なのであろうか,それとも暑い感覚は熱産生の結果として生じるのであろうか.
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