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むし暑い土曜日の午後,"サザエさん"第9号,10号が届いた.亡くなられた長谷川町子さんの傑作まんがシリーズ全33巻が今春から朝日新聞社で発行され,毎月2冊ずつ配本されてくる.
親切で陽気でそそっかしいサザエさんを中心に,醸し出される平和な中流家庭での,ほのぼのとした雰囲気が各号に溢れている.幼いカツオ,ワカメ弟妹との暖かいこっけいな会話,そしてフグ田マスオと結婚し,タラちゃんという赤ちゃんを背負ったユーモア溢れる母親としてのサザエさんの日々.そして昭和21年から書き始められたこのマンガ集の中には終戦後の貧しい日本社会を物語るラジオ,コタツ,ラッパ型の電話器,丸い赤い郵便ポスト,井戸水など当時を偲ばせるなつかしい絵が描かれている.特に"童は見たり,野中のバラ……"の童謡を口ずさみながら,たらいと洗濯板で洗っているサザエさんとその傍で張り板で布を糊つけして張っているお母さんの絵(第5巻)は,亡くなった母の遠い昔を思い起こさせるに十分であった.この"サザエさん"全集に満ち溢れている古い良き時代の人々の暖かさと和やかさが,今日もあったら日々メディアで報道される痛ましい事件も起こらないのではないかなど思ったり,高度成長と最先端の進歩した科学至上主義は,真に人間に幸福をもたらすのかと深い疑問に陥ってしまう.この"サザエさん"を描いた長谷川町子さんが72歳で亡くなられたが,生前からお姉さんに3つの誓いを約束していた."その1つは病気になっても入院させないでください.もう1つは病気になっても手術をさせないでください.そして密葬にしてください"と.そのため彼女は1992年7月に亡くなられ密葬をすませて1か月後に初めて公に知らされたわけである.
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