今月の主題 基準値
巻頭言
基準値がなぜ注目されているのか
河合 忠
1
Tadashi KAWAI
1
1自治医科大学臨床病理学教室
pp.1359-1360
発行日 1996年12月15日
Published Date 1996/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542903175
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従来,臨床検査結果を判断する場合には正常値,正常範囲を"物差し"としてきた.しかし,正常値という言葉が一般市民,ときには医療関係者にも誤った印象を与えることが懸念されていた.すなわち,検診が広く行われるようになり,一般市民自身が臨床検査結果に大きな関心を持つようになった.そして,自分自身の検査値が正常値から少しでも外れると,"異常だ","病気だ"と考えがちであるし,正常値に入っていると,"正常だ","病気でない"と早合点する傾向がある.臨床検査結果の判読はそのように単純なものではなく,特に一見健康そうな市民が対象となる検診での結果の判読はかなりの専門的な知識を必要とする.
もう1つの問題点は,医療関係者とりわけ臨床医の間で正常値という言葉を異なる意味で用いる傾向が広まり,医療関係者の間で相互理解に混乱が生じてきたということである.医師の間で混乱しているのであれば,当然保健婦,一般市民の間にも混乱が生ずることになる.本来は正常値とは,正常人(定義は明確ではないが,一般的に医学的に病気を持っていないと判断された人,すなわち健康人と考えてよいであろう)が示す測定値で,集団正常範囲とは平均値(中央値)±2標準偏差として求められたものである.しかし,近年,臨床検査結果と病気との関係がいろいろな立場から詳しく調査されるようになり,それによって臨床的に重要な関係が明らかになってきた.
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