コーヒーブレイク
花火百景
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.131
発行日 1996年2月15日
Published Date 1996/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542902817
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去年の7月に秋田の大曲市で臨床化学の会があり,時期が早かったが名物の花火のはしりを見せていただいた.盛夏の夜を彩る花火は昔から日本人の趣向に合うものとして愛され続けてきたが,外国でもしばしば夜空をキャンバスに美しく描かれる図を見るようになった.40年近くも前になるがサンフランシスコの金門橋の畔りで市街をバックに見た花火は,あまりに大きな金門湾の広がりのせいで花火が小さく見えた.当時単身留学の心細さもあったのか花火を見て望郷の念にかられたのが昨日のように思い出される.
花火には絢爛さの中に潜む哀傷が人の心を魅きつけるのかもしれない.炎暑のなかにやがて来る秋の訪れを予感し逝く夏を惜しむうつろいの情感が一瞬心をよぎるのである.新潟でも信濃川にあがる花火が年々豪華さを増してきたが,戦時下でさえこの花火を経験した覚えがある.旧制高校の頃であったが寮の前の通称ドッペリ(落弟)坂の砂の上にマントを布いて寝そべり,申しわけのようにポツンとあがる花火を遠く眺めた.やがて戦場に駆り出される我が身のような果敢なさを覚えたのが心に刻まれている.
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