コーヒーブレイク
北冥に𩵋あり
屋形 稔
1
1東新潟病院
pp.7
発行日 1994年1月15日
Published Date 1994/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542901825
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新潟大学の医学部会議室に"北冥有𩵋"―秋艸道人という扁額がかかっており,教授会のときにいつもつらつらと眺めていたものである.北の海に魚が泳いでいるという意で,書のことは半解であるが"𩵋"という字がぴんぴんと躍動して迫力があった.秋艸道人とは秀れた東洋美術史学者,類いまれな歌人,そして独往の書家として名高い会津八一氏のことである.
私が戦後の医学部学生時代下宿していた銀行家H氏宅に,時折筋向いの大地主I氏邸(のち北方博物館分館)に寄寓している鬼瓦のような顔の岩乗(頑丈)な体躯の人が遊びに来た.H氏と早稲田大学同級とかで,しばらくはこの人が新潟きっての文化人会津氏とはつゆ知らなかった.終戦を機に故郷の新潟へ帰られたもので,10年後大学病院で76歳で没された.晩年は特に書道に力を注ぎ,この扁額も渾身の作の由で,I氏一族で当時医学部長をしていた伊藤辰治氏が懇請していただいたという.単純な語句では味わえぬ筆力というものがあり,これが蓋し書道なのであろう.
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