寄生虫屋が語るよもやま話・4
お隣さん,お裾分けをどうぞ—日本海裂頭条虫症
太田 伸生
1
1東京医科歯科大学大学院・国際環境寄生虫病学分野
pp.460-461
発行日 2016年4月15日
Published Date 2016/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542200805
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昔の長屋文化で“煮物を作りすぎちゃったから”と隣近所にお裾分けをして,一方で,その返礼があったことは時代劇でよく見る光景である.貧しいけれどお互いに助け合って幸せに暮らしていたのが古きよきわが国の文化であったが,残念ながら現代ではアパートの隣室で起こった幼児虐待や殺人でさえ気付かないことも珍しくなくなった.“東京砂漠”という歌謡曲の歌詞があったことを思い出す.
さて,日本海裂頭条虫,すなわちサナダムシが今回の話題である.サナダムシは東京の目黒寄生虫館のエースといってもよく,展示コーナーの前で若いカップルが立ち止まると無言のうちに握り合った互いの手にさらに力が入るのが定番で,愛のキューピッドであるらしい.われわれ同業者にも人気の寄生虫で,西日本の某大学の研究室では全長12mのものが駆虫できたと,ギネス記録にも似た興奮をもって学会報告をしている.サナダムシの語源については,形状が真田(さなだ)ひもに似ているからとよくいわれるが,私の大学のお恩師にいわせると,ひもの編み方で“狭之織(サノハタ)”というのがあって,その形状に似ているから,“本来はサノハタムシである”と講義で聴いたのは40年以上前である.最近物覚えが悪くなったが,若い頃のことは妙に忘れないものである.
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