遺伝医療ってなに?・12【最終回】
医科学は医療を変え,ゲノム科学は社会を変える
櫻井 晃洋
1
1札幌医科大学医学部遺伝医学
pp.1566-1567
発行日 2015年12月15日
Published Date 2015/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542200658
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この連載も今回で最後になった.遺伝医療を総括するような話題を,とは思うものの,これがなかなか難しいので,少し脇道から入ることにする.
医学の歴史に関する本を読むのが好きで,時々手に取ってみるが,西洋医学はルネサンス以降の新しい時代の到来まで,ほぼ2千年近くの間ほとんど進歩しなかった.解剖学では2世紀にまとめられたガレノスのテキストが1千年以上にわたって用いられていたし,教会が社会を支配するなかでは,男性の肋骨を女性より1本少なく描かないだけで異端審問に問われるような時代もあった.いわば,社会(教会)が医学を支配していた時代といえる.ルネサンスの到来によって解剖学や生理学では徐々に科学としての医学が芽生え,さらに予防医学の概念も生まれるに至ったが,その一方で,ヒポクラテスの四体液説に源を発する瀉血が19世紀でもまだ通常の医療のなかで行われ,結果としてジョージ・ワシントンをはじめ多くの人の命を救うどころか死を早めてしまった.
近代医学の発展は19世紀後半の病原微生物の発見に始まり,20世紀に入って飛躍的な進歩を遂げたが,それを可能にしたのは診断治療に用いる医用機器の進歩,新しい治療薬の開発,生化学的指標の定量化を可能にした検査医学の進歩などであった.つまり,当たり前のことのようだが,医科学の発展が医療の変革を実現したのである.
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