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1.はじめに
様々な結石関連蛋白の同定やその制御機構の発見により,腎臓結石の発生機序はずいぶん明らかになったが,今なお不明な点も多い.本稿で取り扱うRandallのプラークは,この答えの一つを示すものである.ところで,腎結石にはいくつかの成分があるが,そのほとんどはシュウ酸カルシウム結石(calcium oxalate;CaOx)である.以下この項では,もっぱらこのCaOxについて述べることとする.
ずいぶん昔のことになるが,Randall1)が70年以上前に報告した腎結石の発生機序の仮説への関心が,このところ再び高まっている.それは,尿路である腎盂内に直接腎結石が発生するのではなく,まず腎実質内の腎乳頭部間質に石灰物質が沈着し,それに二次的・連続的にその周囲(腎盂内)に腎結石が形成されていくという仮説である.Randallは,多くの剖検所見などから,この腎結石発生メカニズムに関する仮説を立てた.後述するが,いくつかの問題点により,その後あまり注目されなくなってしまった経緯がある2~4).
一方で,1970年代ごろより2003年ごろまでは,著者の師匠であるKhan(フロリダ大学医学部病理学教室教授)ら5)を中心として,Randallとは異なる結石発生メカニズムが唱えられてきた(fixed-particle theory).それは過飽和となった尿より結晶塊が発生し,さらに集合管などにこれらが閉塞した後,やがて腎盂に露出することで結石の基になるというものである.これは主に動物実験やin vitroにおける膨大な実験結果により提唱されたものであり,世の中に広く認められてきた.著者も,大いにこの分野での仕事をさせてもらってきた.
しかし,2000年ごろからの泌尿器科内視鏡学の進歩(細径内視鏡の発達)により,比較的容易に腎盂・腎杯内の様子を尿道から逆行性に観察・処置できるようになり,様子が変わってきた.この手法による腎結石除去の手術中には,腎乳頭部における結石とそれが接する腎盂粘膜との関係を直接観察し,その部位の組織を採取・分析できるようになったからである.このような実際の結石患者における詳細な観察により,動物実験とは異なりヒトにおける結石形成を誘発する最初のイベントは,腎乳頭部の間質で発生する微小なリン酸カルシウム(calcium phosphate;CaP)の石灰化変化であることがわかった.これに連続して尿路内(腎盂内)に発生した腎結石形成自体は,ただの二次的現象である可能性が高いと認識されるようになった.
先のKhanらによるfixed-particle theoryとは大きく異なり,これはまさに70年以上前にRandallが報告した仮説と酷似する内容であったことは,多くの研究者に驚きをもって迎えられた.以下に,①Randallが70年以上前の当時に報告したプラーク仮説について,②古典的fixed-particle theoryについて,③Evanら6~12)の最近の報告による新Randallのプラークとでもいうべき最新の結石発生メカニズムについて,順次述べていくこととする.
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