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旅立った妻を思いながら,残った家で淡々と暮らす老人の姿を描いた秀逸な映画に,2008年度のアカデミー賞,短編アニメーション賞を受賞した「つみきのいえ」(加藤久仁生監督)がある.わずか12分3秒のこの作品は鉛筆の線が感じられるように淡い色使いで作られているが,淡々と生きる老人の姿を通して,見ているわれわれに人生感や過去を振り返るきっかけを与えてくれるような物語仕立てになっている.環境問題を云々しているわけではないが,海面が上昇しているその町は,妻が生きていた頃から水没し続けている.老人はその街に1人残り,水位が上がるたびに“つみき”を積んだかのように家を積み上げて暮らしている.夕食には必ず妻が座っていた席にもワイングラスを用意している.何か妻に語りかけているようだ.ある日,彼は妻からプレゼントされたパイプを海中に落としてしまい,思い切ってダイビングスーツをつけて海の底へと探しに出かける.老人は妻と暮らしたいくつかの積木の家を見ることになるが,彼の人生の中の折々のシーン,妻と初めて出会った日,子供が初めて生まれ学校に通いだした日,娘がフィアンセを初めて連れてきた日のことなどが走馬灯のようによみがえってくる.その映像に生々しさはなく,“遠い風景”として描かれているが,老人の寂寥感,喪失感がひたひたと迫ってきて心に残る.
世界一の長寿国となった日本では,老人の孤独死が後を絶たない.現在,日本人の平均寿命は85.7歳であるが,その中で沖縄県の女性は最も長寿である.では,なぜ沖縄なのかということになるが,これにはいくつかの要因がありそうだ.温暖な気候風土,ストレスの違い,遺伝的なバックグランドの違い,女性ホルモンやX染色体にコードされる蛋白質の環境による発現の違いなど.しかし沖縄の夏の暑さは尋常ではないうえ,全国一失業者が多い沖縄社会がとりわけストレスが少ないとする説明には合点がいかない.次に,遺伝的なバックグラウンドの違いによる影響であるが,これまでの研究から,沖縄住民の先祖は九州南部から十世紀前後に南下して定住したものであると推測されており,わずか千年程度の期間で大和民族と違う長寿遺伝子が育まれてきたとする考えには少し無理がある.
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