- 有料閲覧
- 文献概要
高木由臣氏の『寿命論―細胞から「生命」を考える』によると,ヒトの寿命というものを明快に規定している.そもそも生命体の寿命には,それぞれに規定された「プログラム寿命」があるという.これに対し「エラー寿命」は,疾病などにより短縮されてしまう寿命をいう.だからこの「定義」によれば,今後医学や科学の進歩により平均寿命は延びても,プログラム寿命は同じことになる.最近診療をしていると,高齢者,特に90歳以上の老人が急激に増えていることを実感する.明治の初め日本人の平均寿命は40数歳であったものが,現在ははるかに80歳を超える.今から40年ほど前は,わが国の100歳以上の長寿者は100人そこそこであったが,現在はその300倍以上の人々が生きている.
このままいくとヒトの平均寿命は限りなく延長するかにみえるが,過去の統計などを元に冷静に推論すると,そうではないようである.過去には150歳を越える長寿者がいた記載があるが,100年以上も昔の統計はずさんで,生年月日を正確に証明する資料がないため,正式にギネスブックには認定されていない.現在認定されている長寿世界一は,122歳のフランス人であるようだ.では長寿日本一の年齢の推移はというと,111~116歳で推移しており,それ以上延びていく気配がない.かつて泉重千代氏が120歳を超えていたと報道されていたが,その後の鑑定により,109歳で死亡したと考えられている.ギネス同様日本人も120歳前後が「プログラム寿命」ということになるらしい.現在,日本人の平均寿命は,80歳代に突入しているが,医学の進歩や,社会のセキュリティーの改善などを駆使してもやっとあと30数年分寿命が延びる余地があることになる.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.