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中国において漢の時代に集大成された伝統医学が仏教の伝来とともに日本へ導入され医療の中心として発展・機能してきた.近世になってヨーロッパ医学(蘭学)が導入された時期から,日本で発展してきた中国医学を「漢方」と呼ぶようになった.漢方のように伝統的な医学に則って使用される薬物が伝統薬で,その中で漢方薬が広く知られている.一方,使用方法が地域によって異なっているものは民間薬と呼ばれ,一般に単味で用いて対症療法的である.伝統薬,民間薬に用いられる天然由来の薬物を「生薬」と呼ぶが,それらの中で中国医学とともに導入された薬物が漢薬で,日本独自の薬物,すなわち民間薬と呼ばれるものが和薬であり,ヨーロッパで開発・使用されてきた天然薬物を西洋生薬と称して区別してきた.漢方薬に配合される生薬は植物,動物,鉱物を基原とするがその内植物由来生薬が圧倒的に多いが,動物生薬としては熊胆(ゆうたん:熊の胆囊)や反鼻(はんび:まむし),地竜(じりゅう:みみず)など,また,鉱物生薬として竜骨(りゅうこつ:哺乳類の化石)や牡蠣(ぼれい:牡蠣殻),石膏などが配合される.漢方薬は配合される生薬の種類と量が決まっており,投与に当たっては漢方独自の診断法により患者個々人の「証」と呼ばれる病態などを総合的に把握し「証」を決定して漢方薬が投与される.この点が西洋医学と大きく異なる点で,テーラーメイド医療,全人医療の最たるものである.
前述の通り生薬は天産品であるがために常に資源の枯渇に悩まされている.同時に生薬の品質の不均一性も漢方薬の効き目に大きな影響を与える重要課題である.例えば,70%以上の漢方薬に配合される甘草(かんぞう)は需要量が大なことは容易に想像できるが,漢方薬に限らず,甘草から抽出・単離した有効成分,グリチルリチンが慢性肝炎やアレルギーの薬として大量に使用されている.また,味噌,醤油を初めとする食品の甘味料として,さらに各種飲料の甘味付けとしての需要も極めて大きい.このため大量の自生甘草が採取され,特に中国では大規模な乱獲が行われたために砂漠化を助長しているとの見解から,2000年に中国国務院より「甘草,麻黄の乱採取防止に関する通知」が内部通達され,甘草の採取・生産・売買・流通に関する規制がなされ,漢方薬や生薬にかかわる者にとって一大パニックが起こったことは記憶に新しい.一方では品質の保証を担保する意味で,日本薬局方においてグリチルリチン含量は2.5%以上と規定されている.また,甘草には300種以上の成分が確認されているのも事実である.以上から,限られた資源を有効利用するためにも品質の分析・評価が必須不可欠となるであろう.本企画の狙いの一つがここにある.
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