今月の主題 生体内微量元素
話題
亜鉛と脳機能
武田 厚司
1
Atsushi TAKEDA
1
1静岡県立大学薬学部医薬生命化学分野
pp.197-201
発行日 2009年2月15日
Published Date 2009/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101891
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1.はじめに
現在,ヒトに必要な元素として20種類以上が知られており,細胞の増殖・分化・機能に重要な役割をもつ.その中には鉄,亜鉛などの微量元素が含まれている.亜鉛は酵素活性,蛋白質の構造維持に必要であり,300種以上の亜鉛結合蛋白質が知られている.亜鉛は蛋白質の機能を通して遺伝子の複製や発現など細胞機能に関与し,個体の発生ならびに生命活動に重要な役割を担っている.また,フリー亜鉛(亜鉛イオン:Zn2+)は細胞内外において極めて低濃度で存在するが,細胞内Zn2+がシグナル因子として機能することが考えられる.さらに,脳内では亜鉛は神経細胞のシナプス小胞内に存在し,神経伝達調節因子として機能する.すなわち,神経活動に伴い放出されたZn2+がダイナミックに脳機能を調節する.
大脳皮質では多数の皮質領域を結ぶネットワークを介して皮質機能が連合し,思考や記憶などの高次機能を営む.大脳皮質の内側面にある海馬は記憶と関係し,海馬が損傷されると記憶が形成されない重度な前行性健忘症となる.大脳皮質の連合野と海馬のネットワークは記憶に関係する.感情表現など情動行動を司る扁桃体とともに,海馬では亜鉛濃度が他の領域と比べて高い(図1aと1b).また,Timm's染色(Zn2+が染まる)でもこれらの領域が強く染色される(図1c).本稿では,脳の機能ならびに病態を,亜鉛の作用点から実験動物を用いた筆者らの研究成果を踏まえて概説する.
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