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原始的な免疫系は今日の無脊椎動物に見られるように,マクロファージのような貪食機能をもつ細胞による非特異的な排除機構が主であったと想像される.そのような免疫系は進化して,高次に統合されたヒトの免疫系に至った.原始的な免疫系と比較すると,進化した免疫系の大きな特徴は特異性をもつことである.特異性は遺伝子再構成の結果作られる抗体やT細胞受容体の多様性から生まれる.抗体は特異的な認識分子として働き病原体に結合する.ヒトには原始的な免疫系と進化した免疫系の両方が存在する.前者が自然免疫,後者が獲得免疫であり,それぞれが働く時期に違いがある.感染初期には自然免疫が即座に応答し,ここでは好中球,マクロファージなどの食細胞やNK細胞などが関与する.抗体産生やT細胞の免疫応答が起こる獲得免疫は,病原体の感染後数日を経てから作動する.自然免疫には抗体のような高い特異性はないが,認識分子として働くパターン認識蛋白質と総称される蛋白質が存在する.病原体の表面には,細菌のリポ多糖,ペプチドグリカン,リポテイコ酸や真菌のβ-グルカンなどのように微生物に特有の成分があり,病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns;PAMPs)と呼ばれる.これらを認識する蛋白質がパターン認識蛋白質である.
レクチンは動植物や細菌など生物に広く見いだされる糖結合性蛋白質であり,動物レクチンの機能は発生・分化・免疫など多岐にわたっている.自然免疫に働く動物レクチンが近年次々と発見され,また重要性が明らかにされたことから,これを「生体防御レクチン」と呼ぶことが2000年に提唱された(特集 自然免疫を担う生体防御レクチン.蛋白質核酸酵素45巻5号2000).コレクチン,フィコリン,ガレクチン,ペントラキシンなどがこの範疇に含まれる.これらの生体防御レクチンはそれぞれが特徴的な構造をもつ蛋白質のファミリーである.例えば,コレクチンはコラーゲン様構造と糖鎖認識ドメインを併せもつ蛋白質のファミリーであり,マンノース結合レクチン(mannose-binding lectin;MBL),肺サーファクタント蛋白質(SP-A,SP-D)などの蛋白質が含まれる.また,フィコリンはコラーゲン様構造とフィブリノーゲン様構造をもつ蛋白質ファミリーで,ヒトではL-ficolin,H-ficolin,M-ficolinがある.生体防御レクチンはパターン認識蛋白質であり,それぞれが特有の結合性をもち,病原体表面のPAMPsである糖鎖に結合する.重要な点は,各々の生体防御レクチンは結合可能な糖鎖をもつ多種多様の病原体を認識できることである.このことは,ある病原体を複数種類の生体防御レクチンが共通に認識しうることを意味している.
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