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炭疽菌(Bacillus anthracis)は炭疽の原因菌である.炭疽は皮膚,腸,肺炭疽に分けられる.皮膚炭疽は傷口より芽胞が侵入し,虫刺され様病変から浮腫を伴う無痛性の悪性膿胞が出現する.腸炭疽は吐き気,嘔吐,腹痛,吐血,血便,腹水の貯留などの胃腸炎症状がみられる.最も重篤な肺炭疽は,未治療での致死率が9割近くに達する.芽胞の吸引により発症する.米国における郵便物によるテロでは,肺炭疽患者11名のうち5名が死亡した.潜伏期は4~6日,初期症状はインフルエンザ様(発熱,寒気,倦怠感,筋肉痛,のどの痛みなど)で,白血球数は平均9,800個/ml,好中球の増加,血清中トランスアミダーゼ活性上昇や低酸素血症も認められ,胸部X線像では縦隔の著明な拡張が観察される.重症例では胸部痛,呼吸困難,チアノーゼ,昏睡などを伴い死に至る.経過が急性なため,迅速な診断法と速やかな抗生物質投与が必須である.診断法には迅速・特異性が求められるため,菌体の分離と染色とともに,PCR(polymerase chain reaction)などの遺伝子診断法が必須である.特異性を求めるため,炭疽菌の病原因子である莢膜形成や毒素産生能の遺伝子と,染色性のS-layer形成遺伝子を用いる1).サンプルは鼻腔や皮膚の拭い液,血液,状況に応じて空気や食品,土壌など,あらゆる可能性を考えて使用され,種々の方法で基質DNAを抽出する.PCR法の感度を上げるためにNested-PCRも使用され,さらにリアルタイムPCRが迅速性に富み便利である1).また,温度が一定で,濁度のみで判定できるLAMP(loop-mediated isothermal amplification)法の応用も簡便で迅速性に富み便利である2).
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