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1.はじめに
日本臨床微生物学会では,2001年米国で発生した炭疽菌テロにより国内での種々な体制強化が課題となったのを機会にワーキンググループ(委員:太田美智男,熊坂一成,荒川宜親,菅野治重,山中喜代治,山口惠三)のもとで炭疽菌検査マニュアルを出版した.執筆担当委員は,小栗豊子(順天堂大学医学部),佐藤智明(静岡県がんセンター),長沢光章(防衛医科大学校),西山宏幸(駿河台日本大学病院)と本稿の筆者・奥住捷子である.Bacillus anthracis(炭疽菌)は,元来は家畜の感染症の原因菌であり,わが国ではヒトへの感染例は稀で,臨床経験のある医師がほとんどいないことや,病院などの検査室では検出,同定した経験がないことが多い.炭疽菌は4類感染症に分類されており,B. anthracisは,一般的にP2レベルの安全キャビネットがあり,グラム染色,溶血性,運動性試験などで推定できる.しかし,生物テロの場合は通常では考えにくい感染経路であること,臨床材料以外のものも検査対象となっていること,感染初期には検査材料からの検出が難しいことなどの問題がある.本学会マニュアルは,炭疽菌の検査法を中心としたマニュアルで,病院検査室および臨床検査センターにおける「臨床材料を対象とした検査法」に限定してある.わが国では,日頃より危機管理意識が薄く,検査室の安全体制も例外ではない.このマニュアルには,最低限の防御設備,グラム染色などの基本的操作,連絡体制の整備などが記載されている.炭疽菌検査マニュアル(Ver.1,2001(平成13)年12月20日発行:日本臨床微生物学会)を改めて炭疽菌を疑う材料の取扱い上の安全管理という視点から抜粋し紹介する.
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