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糖尿病と膵臓・膵島移植
糖尿病は1型と2型とに分類される.1型糖尿病は主に20歳以下の若年者に初発し,膵臓の膵島細胞に対する自己抗体が形成されてインスリン産生が枯渇する自己免疫疾患で,急速に進行し初期からインスリンの投与が必要になるので,若年型糖尿病,インスリン依存性糖尿病(insulin dependent diabetes mellitus;IDDM)とも呼ばれている.2型糖尿病は成人になってから肥満・過食が原因でインスリン産生が相対的に不足,末梢細胞のインスリン感受性の低下によって起こるもので,食事療法,運動療法,経口血糖降下剤などの治療を優先するので,成人型糖尿病,インスリン非依存性糖尿病(non-insulin dependent diabetes mellitus;NIDDM)とも呼ばれる.日本人の糖尿病患者の場合,95%は2型糖尿病で,5%が1型糖尿病といわれている.1型であれ2型であれ進行すると腎不全を合併し,糖尿病性腎症が日本における新規透析導入原疾患の第1位となってから久しい.膵臓・膵島移植は1型糖尿病患者を対象としてインスリン分泌細胞を補填することによって,糖代謝を正常化し,二次性合併症の進展阻止,QOLの改善,さらには救命,延命効果を期待する治療法であり,欧米では糖尿病に対する治療法の一つとして定着している.膵臓移植は脳死あるいは心停止のドナーから膵臓を十二指腸とともに移植する場合と生体から膵体尾部を移植する場合があるが,①発症間もない頃で腎不全を併発していなければ膵単独移植(pancreas transplantation alone;PTA)が選択され,②腎不全を併発すると,一人のドナーから膵臓と腎臓をもらう膵腎同時移植(simultaneous pancreas kidney transplantation;SPK),あるいは,③腎移植を受けておいて,後日別のドナーから膵臓をもらう腎移植後膵移植(pancreas after kidney transplantation;PAK)が選択される.膵島移植も同様に3種類の適応がありうるが,国内外いずれも長期成績が良くないため1),わが国での実施例は少ない.また,複数ドナーからの膵島分離・移植を行うため,レシピエントは高率に感作されPRA(panel reactive antigen)が陽性になっていることが報告されており2),将来,膵臓移植や腎臓移植が必要になったとき,クロスマッチ陽性で移植ができない可能性がある.現時点での膵島移植の適応は,膵臓移植ができない,全身麻酔ができないほど全身状態が悪い場合と十分なインフォームド・コンセントのうえでレシピエント本人が膵島移植を希望する場合とに限定されるべきである.
国際膵臓移植登録によると3),膵臓移植の2003年末までの累積症例数は23,043例に達し,2000年以降は年間約1,800例が全世界で行われている.日本でも,膵臓移植中央調整委員会の尽力によって膵臓移植の登録から移植手術までを全国支援体制で行えるようになり,1997年10月の臓器移植法制定後2007年5月末現在,1型糖尿病で腎不全を合併した患者に対して,脳死ドナーから34例,心停止ドナーから2例の計36例のSPKあるいはPAK,脳死ドナーからのPTA1例,生体ドナーから10例のSPK,PAK,PTAが施行されている.
本稿では,生体膵腎同時移植を希望して当科で術前検査を行った実例を参考にして,生体膵臓移植レシピエントの適応検査,脳死あるいは心停止ドナーからの膵臓・膵島移植を希望してネットワークに登録するための臨床検査,膵腎同時移植の生体ドナーに対して行う臨床検査の方法と意義について述べる.
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