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はじめに
四重極型イオントラップ(quadrupole ion trap;QIT)とは,ある範囲の質量電荷比(m/z)のイオンを空間にトラップすることができる装置で,その原理は1960年にPaulとSteinwedelによって提案された1).しかし初期の装置は原子物理学者が研究に使う装置でしかなかった.1983年にFinnigan MAT社(現Thermo Electron社2))からガスクロマトグラフィーの検出器として発売されたFinnigan ITDTMには,Staffordが発明した新たなQITの質量分析法と,軽い質量のダンピングガスを用いイオンをQIT中心部に収束させる技術が導入され3,4),小型で操作が簡便な質量分析装置としてQIT質量分析計が商品化された.その後測定質量数範囲の拡大5,6)と衝突誘起解離(collision induced dissociation;CID)技術7,8)によって,エレクトロスプレーイオン化法を用いたQIT質量分析計はプロテオーム解析の1つの手法であるMS/MSイオンサーチを行うための代表的な装置の1つとなっている.
しかしQITだけの質量分析計は,分解能が十分でなく高い質量のイオンやフラグメントイオンを精度よく分析できないこと,広い質量数範囲を測定するのに時間がかかるなどの問題点がある.これらを解決するために,高分解能で高い質量のイオンを精度・感度よく分析できる飛行時間型質量分析計(time of flight-mass spectrometer;TOFMS)とQITを組み合わせた装置の研究がなされてきた9~12).しかし両者の連動性が悪く,プロテオーム分野に適用できるような装置はこれまで存在しなかった.
QITとTOFMSの連動性を高め,プロテオーム解析に十分利用できる高精度なMSnスペクトルを測定する技術が,1999年にDingらによって発表された13).本稿ではこの技術を利用したAXIMA-QITTMの分析例を用い,QIT-TOFMSの特徴を述べる.
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