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医療は人類とともにこの世に存在していたわけだが,当初は経験とその地域の風習・社会的通念で医療が行われてきたと推測される.そのような古い時代から,人類は病気の原因追及には深い関心を持っていたはずであり,原因追求の努力は続けられていたと思われる.尿中の糖分や蛋白質を測定できるようになり始めたのは17世紀後半であり,体の一部(組織)を調べて病気との因果関係を論ずるようになったのはモルガーニ(Giovanni Basttista Morgagni, 1682-1771)の研究が先鞭をつけ,ウィルヒョー(Rudolf Virchow, 1821-1902)の時代に定着した.一方で,錬金術から発展した“化学”を生物現象の理解にも利用しようと努力したのがベルセーリウス(Jons Jacob Berzelius, 1779-1848)らであり,薬学を介して植物学などから化学と生物学との結びつきが起こり,生化学が誕生した.18世紀後半から19世紀にかけての時代は今日の生命科学研究の黎明期であり,多方面からの科学の融合の成果で生命科学ができあがったのである.“臨床化学(臨床検査)”の概念ができたのはこの時代からである.
さらに,生命現象を化学的に解明し,疾病の診断や治療へ利用しようという“臨床化学(臨床検査)の考え”が医療界に定着するきっかけになったのは,オスロの病院の小さな検査室の医師であったフェリング(Ivar Asbjorn Folling, 1888-1973)によるフェニルケトン尿症の発見である,と筆者は考えている.知恵遅れ,発育不全の姉弟の尿の分析から,フェニルアラニン代謝異常が病因であることを明確にし,その対策(対症療法)まで提示できたことで,臨床化学(臨床検査)の威力を当時の世間や医学会に見せつけた.このことが契機になり,ヨーロッパで病院検査部が定着し,以後,その流れが世界的に広まったわけである.まだ,100年余の歴史しかないが,今日では,臨床化学(臨床検査)の発展とゲノムプロジェクトの成功で,テーラメード医療が話題になるまでになってきた.phenotype(臨床検査データ)とgenotype(遺伝子解析)の組み合わせで,医療の形態が劇的に変わる兆しを感じさせられるような時代になっている.今月の主題は,このような臨床化学(臨床検査)のそれぞれの先達から,それぞれの領域について日本における状況を含めて纏めていただいた.
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