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はじめに
大腸菌(Escherichia coli)は腸内細菌科(family Enterobacteriaceae)に属し,ヒトや温血動物の腸管(回腸,結腸)に棲息し正常細菌叢を構成するグラム陰性桿菌である.一方,大腸菌は水系や土壌には常在しないために,水道水などの飲料水や海水浴場などの衛生的指標菌として用いられることがある.大腸菌は通性嫌気性で,通常周毛性の鞭毛をもち,ブドウ糖・乳糖を発酵してガスを産生する.表層抗原として167種類のO抗原(菌体抗原),54種類のH抗原(鞭毛抗原),100種類以上のK抗原(莢膜抗原)があり,これらの組み合わせによって血清型が分類されている.
大腸菌は,ヒトに腸管感染症および腸管外感染症を起こす.大腸菌による腸管感染症は,発展途上国においてはもちろん先進国においても重要な感染症である.一方,大腸菌による腸管外感染症には,尿路感染症,髄膜炎,敗血症,肺炎,創傷感染症などがあり,いずれも日和見感染症,術後感染症あるいは院内感染症として発症する.
大腸菌には,プラスミド,ファージあるいは病原性遺伝子島(pathogenicity island;PAI)を介して定着性,細胞侵入性,毒素産生能などを獲得した,いわゆる特異な病原性遺伝子をもち,特定の感染症を惹起する病原性大腸菌(pathogenic E. coli)と呼ばれる一群がある.ヒトの病原性大腸菌には腸管感染症を惹起する下痢原性大腸菌(diarrheagenic E. coli)と腸管外感染症を惹起する腸管外病原大腸菌(extraintestinal pathogenic E. coli;ExPEC)とに大別される.
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