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はじめに
わが国が医療の進歩や生活環境の改善のもと高齢化社会を迎え,生活様式が欧米化されるにつれ,疾患も様変わりした.しかし脳卒中発症数は増え続けており,なかでも近年脳梗塞などの虚血性脳血管疾患は,脳出血が減少しているにもかかわらず増加している.虚血性脳血管疾患には種々の病態が含まれるが,その分類として現在国際的に最も広く用いられているのが1990年のNational Institute of Neurological Disorders and Stroke(NINDS)分類IIIである(表1)1).このなかで動脈硬化性変化を背景とするものには,アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞がある.アテローム血栓性脳梗塞では頸動脈や脳底動脈など主幹動脈の動脈硬化性変化が主因となり,高血圧のほか,他の動脈硬化性疾患と同様,糖尿病,喫煙,高脂血症などが動脈硬化の促進因子となる.これに対し,穿通枝領域の梗塞であるラクナ梗塞はlipohyalinosisという高血圧性変化を主体としており,高血圧以外の因子の関与はアテローム血栓性脳梗塞に比べると少ない.このように虚血性心疾患と比較して虚血性脳血管障害は種々の病態が含まれることもあり,虚血性心疾患と比べると動脈硬化の種々の危険因子についての知見は全体的に少ない.しかし,高血圧や糖尿病のような従来知られている動脈硬化促進因子のほかにも,ホモシステイン値や,高感度CRP(high sensitivity CRP;hs-CRP),種々の感染症による炎症も動脈硬化を介して脳梗塞でも発症にかかわることが示されつつある.一方,塞栓症の場合,多くは非弁膜症性心房細動に続発するものであり,血栓性脳梗塞と比較すると,動脈硬化の関与は少ないと考えられている.したがって,以下には血栓性脳梗塞を中心に述べることとする.
脳梗塞の実地臨床上は,病型や部位診断は理学的所見や画像診断が主体となるが,血液検査上の臨床検査値異常はその病態を把握し二次予防を考えるうえで重要である.脳梗塞患者にみられる臨床検査値の異常としては動脈硬化を促進する因子,凝固線溶系の異常と,遺伝子異常などのその他の異常に分けることができる.凝固線溶系の異常については,凝固系の亢進として脳梗塞の発症にかかわるものと,脳梗塞発症直後の凝固線溶系の変化の2通りが考えられるだろう.一般的に脳梗塞の危険因子として知られる因子を表2に示す.通常の中壮年以降の血栓性梗塞の場合は,高血圧や糖尿病などが動脈硬化の促進因子となっていることが多いが,若年者の脳梗塞や家族性のみられる場合は特殊な異常を伴っていることが少なくない.以下に,個々の臨床検査値異常について述べる.
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