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先生に始めてお会いしたのはもう50年も前のことで,当時先生は神戸女子薬科大学(現神戸薬科大学)をご卒業後,全国の国立大学で初めて創設された大阪大学医学部付属病院中央臨床検査部に臨床検査技師として勤務しておられました.私は医学部を卒業し,内科の大学院生として甲状腺ホルモン検査のセットアップのために内分泌検査室へ派遣されました.医学部出身の悲しさで分析化学に弱い私にその基礎から徹底的に教えて下さったのが渡邊先生でしたが,私がピペットの選び方を間違えると,さりげなく正しいピペットを差し出してくれるというように謙虚でこまやかな配慮をされる方でした.
その後先生は母校臨床化学教室の助教授,次いで教授に就任されました.今でこそ女性教授は珍しくありませんが,当時は数少なく,いわば女性科学者の先駆者の一人であったといえましょう.それだけに女子学生の教育に大変情熱を傾けられ,女性科学者としてノーベル賞を受賞されたロザリン ヤロウ先生を大学にお招きし素晴らしい講演会を開催されたのもその一つでした.ご存知のように先生は臨床化学検査の分野で大変活躍され,数ある国内学会のうち日本臨床化学会ではその40年に及ぶ歴史のなかで,初めて女性の年会長として1993(平成5)年に第33回年会を主催されました.その時,先生と故堀尾武一先生と私の三人で「わたしと臨床化学」というテーマで鼎談をしたのも懐かしく思い出されます.最近は名誉会員として大所高所からご指導を賜っておりました.先生のご活動は国際的でもあり,スペインの薬学アカデミーで日本人としては唯1人の特別会員になられたり,私が組織委員長を務めた第18回国際臨床化学会議では諮問委員をお引き受け下さいました.先生はこのように立派な科学者でしたが,一方では和服の似合う邦楽の名取りでもあったことは知る人ぞ知るところでした.
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