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はじめに
ヒトDNAには,短いものでは1~数10塩基,また長いものでは数100~数1,000塩基にも及ぶ繰り返し配列が存在し,そのような反復配列部分は全DNAの30%に及ぶともいわれている.反復配列DNAは,サテライトと呼ばれている.これらのうち反復単位が数10塩基から6塩基までのものをミニサテライト,5塩基以下のものをマイクロサテライトと呼び分けている.反復塩基の繰り返し数に個人差のあるものがあり,メンデルの法則に従い遺伝することが知られている.この遺伝的多型は縦列型反復配列多型(tandem repeat polymorphism)といわれている.法医DNA検査におけるミニサテライトからマイクロサテライトへの変遷については,第1回の「法医学領域における遺伝子検査の変遷」に解説されているので参照いただきたい.ミニサテライトからマイクロサテライトへ移行した大きな要因は,マイクロサテライトが,PCR(polymerase chain reaction)による型判定により適していることが挙げられる.とくに複数のマイクロサテライトに対するプライマーを混合することによって多数の遺伝子を同時にPCR増幅でき,さらにPCR産物は塩基サイズが小さいため同時に電気泳動分析できることである.この方法はマルチプレックス(multiplex)法といわれている.変異反復配列部分が長いものでも200に至らないマイクロサテライトは,例えば,ミニサテライトであるD1S80を型判定するのに必要なゲルの長さで3座を同時に型判定できる.マイクロサテライトは識別能においては,ミニサテライトに劣っているが,マルチプレックス法を導入することで1回の検査あたりの識別能は高くなる.今日では10座以上のマイクロサテライトを同時にPCR増幅,型判定する高性能な検査キットが市販されている.マイクロサテライトの普及は,これら検査キットに負うところが大きい.マイクロサテライトはSSR(simple sequence repeat),あるいはSTR(short tandem repeat)とも呼ばれている.法医学領域では,一般的にSTRという用語が用いられている.
犯罪捜査資料に関して,指紋制度に類したSTRによるDNAデータベースが諸外国において構築されている.わが国でも2004年12月から物体検査材料について,さらに2005年9月からは容疑者についての遺伝子情報のデータベース化がスタートした.このようなSTRを基にしたDNAデータベースの構築にともない,新たなDNA多型の導入はあっても,STR検査は今後も長期にわたり継続されるものと思われる.
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