味わいエッセー 出会い
袖ふれ合うも昭和の縁
松角 康彦
1
Yasuhiko MATSUKADO
1
1熊本大学
pp.254
発行日 1990年3月1日
Published Date 1990/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541900600
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出会いという言葉の持つ人の世の運命的な色合いを,思い出の中に尋ねてみても,これといった劇的な邂逅に恵まれた記憶がない.人さまに受けた情けを知らずに過ごした鈍さによるものか,あるいは余りにも自分中心の輪の中で生きてゆかねばならなかったことが,この世の美しさに気付かせなかったのか.それでも過ぎた日々のひと駒ひと駒を振り返ってみると,私の履歴書の中にごく当然のように幾たりもの人の姿が重なっては消えてゆく.いわば出会いの連なりであり,出会いなしには成り立たない歳月であった.ことに昭和という時代枠の中で60年余りを過ごしたものにとり,誰にも共通した最大の出会いは,昭和との出会いではあるまいか.
降る雪や明治は遠くなりにけり
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