随筆・紀行
袖振り合うも(その1)
屋形 稔
1,2
1新潟大学
2日本エッセイストクラブ
pp.394
発行日 2010年4月15日
Published Date 2010/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102284
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袖振り合うも多生の縁という言葉がある.長い人生の中で色濃くつき合いをもち,常に念頭を去らない人も数多くあるが,ただ一度の出会いが何かの折に頭に浮かび,思い出を楽しんだり夢を膨らましたりすることも多い.
最近長寿を保ち,功成り名遂げて逝った森繁久彌もその一人である.主に映画や演劇で万人に知られたが,私は若い頃の彼の歌声に魅了された一人である.ラジオが主な頃に独得の声や節廻しに流行歌の醍醐味を味わうことしきりであった.そのため機械いじりの巧みな友人にラジオ付き蓄音機を作製して貰ったくらいである.後年実物に見参したのは彼がまだ青年の加山雄三を引き連れて新潟の汽船会社の新造船就航の催しに招かれてきたときである.船員姿の彼らと握手したり近海を1時間程セーリングする仲間として談笑した.2度目は東京の帝国劇場のかぶりつきで赤ひげ先生を演ずる彼を見たが,舞台は埃りが一杯立ち込めていて,この商売は長生きとは無縁だと感じたが,百歳近くまでしぶとく生きてみせた.
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