特別寄稿
医療パラダイムの形成と脳死社会[その1]—脳死概念を中心に
秋葉 聰
1
1コーネル大学アジア学部
pp.1009-1015
発行日 1993年11月1日
Published Date 1993/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541900507
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はじめに
今日のアメリカにおける先端医療がもたらす脳死・臓器移植産業は,巨大な資源が集約的・体系的に投下された「医療パラダイム」を形成している.それは,移植技術の進歩,免疫抑制剤の開発と適用,臓器・組織の収穫を営むOPOs(Organ Pro-curement Organizations)の出現と組織化,臓器の質的管理とその規制,レシピエントとドナーの情報と臓器配分の便宜をはかる全国ネットワーク(UNOS=United Network for OrganSharing)の設置,民間保険企業および連邦政府の医療費・医薬費負担制度の成立,収穫した臓器・組織を「国民の財産」とみなし売買を禁止する倫理規制と臓器移植法の成立,臓器不足の解消をはかる戦略としての病院への各種義務化,コーディネーターを含む脳死・臓器担当の専門家の確立などから構成される国家的事業である.医療技術,法律,倫理,経済,政治力が総導入された,医療の歴史に例を見ないパラダイムといってよい.
それは,脳死概念が可能性を切り開いたパラダイムで,本稿はこのパラダイムを包括する社会を「脳死・臓器移植社会」(以下,脳死社会とする)と規定し,人間の生命に関する価値観の転換に起因する二重・三重の複雑な矛盾が交錯し,多くの複合的な諸問題を内包するアメリカの脳死・臓器移植の断面を,本号と次号の2回にわたって考察する.
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