連載 医療機関で起きる法的トラブルへの対処法・28
暴力・暴言を伴わない患者の迷惑行為に対する診療拒否
小林 京子
1
,
黒瀧 海詩
1
1弁護士法人 色川法律事務所
pp.721-725
発行日 2023年8月1日
Published Date 2023/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541211997
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■1 安全配慮義務と応招義務のジレンマ
患者による迷惑行為は,病院経営において非常に悩ましい問題の一つです.漫然と放置すれば,迷惑行為を嫌がる他の患者が他の医療機関に流れかねないほか,他の急患への対応が遅延して,容体が悪化したような場合には,病院に損害賠償責任★1が生じる恐れがあります.また,迷惑行為は,対応する医師,看護師や事務職員の多大な負担となり,離職の原因となりかねない上,対応に疲弊してうつ病などを発症した場合には,やはり病院の安全配慮義務★2違反となる可能性があります.他方で,医師個人は応招義務★3を負っており,病院も,患者からの診療の求めに応じて,必要にして十分な治療を行うことが求められ,正当な理由なく診療を拒んではならないとされていますので★4,軽々に診療を拒否するべきではありません.主治医などから迷惑患者への対応に関する相談を受けた際には,このようなジレンマを意識して,慎重に対応していく必要があります.
迷惑患者への対応に関しては,一般論としては,本連載第2回★5で解説したとおり,警察への通報★6や仮処分命令の申立てなども考えられますが,本稿では,設例のケースのような暴力・暴言を伴わない患者の迷惑行為を念頭に,診療拒否に至るまでのプロセスおよび診療拒否の判断のポイントについて解説します.
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