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■はじめに:医療費の財政基盤
フランスの医療制度は,義務加入である社会保障制度への雇用者・被雇用者両者による拠出金(2022年予算では社会保障歳入全体に占める率58%)1)を基盤とする皆国民健康保険をベースとした制度により成り立っている.
財源には収支均衡のために国庫より税も投入され,年々,歳入に占める税の割合は増え続けていた(2022年予算では一般社会税注1:20%,租税18%,金庫間移動2%,その他1%).
特にこの10年で,限りある医療資源を最大限に有効活用すべく「費用対効果」の議論も以前よりはタブー視されなくなってきたように見受けられる.1996年2月22日の憲法改正以来,毎年,社会保障の資金調達・分配に関する社会保障財政法(LFSS)を議会で投票し,「財政均衡の一般的な条件」を決定,「収益予測」に従い「ONDAM支出目標」を設定している.次の会計年度,および現会計年度の修正を行う(毎年10月15日までに政府により提案され,その後,議会において50日間審議が行われる).
日本の医療制度と多くの共通点を持つ一方で,後期高齢者医療に関する考え方には大きな違いがあるように見られる.それは例えば,①高齢者医療の自己負担率に現役との差はなく同率,②介護が公的に保険制度化されていない点からも推して知るべしであろう(ただし,福祉手当枠でAllocation Personnalisée d'Autonomie:APA,個別自立手当はある).
政府は,社会保障財政(老齢年金含む)について2010年以降,赤字を削減し続け,2018年には,赤字12億ユーロまでに抑えることに成功,2023年には均衡に戻るであろうとすら予測されていたが,今回の新型コロナウイルス感染症(コロナ)により,再び赤字へ転落.2020年は397億ユーロ,2021年は397億ユーロ,2022年は214億ユーロの赤字に達すると見られている.
フランスには,上述の義務加入の公的健康保険の上に,補足的に任意加入する民間保険「ミューチュエル(Mutuelle)」注2が存在する.ただし,全ての雇用主には被用者に対して加入が任意ではなく義務付けられている2).
原則,患者の自己負担率は,医療機関受診時の窓口で3割,薬剤については薬効別に異なり,病院では日額滞在費,さらにパラメディカルによる施術の一部などがあり,ミューチュエルによってこの自己負担部分の償還を受ける国民が多い.その加入率は,2019年時点で国民の95%というデータもあり,その存在は,事実上,既にほぼ義務加入に近いため,フランスの医療財源は二階建ての保険制度と見ることもできる3).
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