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本連載で先に紹介した2つの事例では,地域の医療機関がどのように新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)に備えたか,また専門家が不在の中でどのようにクラスター対応をしたのかを紹介した.連載第5・6回は,新型コロナの医療の特徴である,保健所を介在した調整とその連携について紹介する.
新型コロナ診療が他の感染症の診療と大きく異なる点は,確定診断となった患者の入院調整に保健所が関わることである.結核やHIV感染症の場合,診断した医師がそのまま自分の施設で診るか,近隣の専門医療機関に紹介する.その場合,どのような現場・経緯の症例なのかは,医師同士で連絡を取り合い,事務的なことは医療連携部門のスタッフが調整するため,患者情報を得るのはそれほど難しいことではない.
一方,新型コロナでは,発生届が保健所に送られ(FAXまたはHER-SYS),その後,保健所の職員が電話で患者に連絡し,体調の確認,行動歴の確認と濃厚接触者の把握をしながら,入院調整を行う.件数が少なく,地域の受け入れ医療機関のベッドに余裕があればそう難しいことではないが,急性呼吸器感染症は広がりやすく,無症状者や軽症者を含めて規模の大きな症例群への対応が必要になるのが特徴であり,「稀な少数の症例対応」モデルはすぐに破綻する.重症以外は自宅療養を基本とする国も多い中,日本は当初,「全例」入院対応だった.その後,報告事例が増加し,軽症者がベッドを埋めて新規症例の入院調整が困難になる中,軽症者や回復者は一定条件の下,自宅療養やホテルなどの宿泊施設での療養が選択できるようになった.さらに2020年10月24日からは,年齢(65歳以上),基礎疾患などにより優先的に入院する人たちと,無症状・軽症者を初期に整理して準備した病床が軽症者で埋まらないようにするための運用の変更が行われ,地域事情に合わせて調整できるよう,自治体の判断が尊重されている.
連載第5・6回では,筆者がアドバイザーとして支援している東京都港区の経験から,医療機関と患者の間で調整している保健所の取り組み・課題を紹介する.
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