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■はじめに
令和元(2019)年9月26日に,厚生労働省は病床機能の見直しが必要と考えられる424の公立病院・公的病院のリスト公開を行った1).この公開に当たって厚生労働省は,がん・手術・救急を高度急性期/急性期病院の主たる機能とした上で,これらの診療実績が少ない病院および近隣に当該施設以上の類似機能を持っている病院がある病院について,自施設の機能選択(ここでは高度急性期・急性期)の見直しをしていただきたいという説明を行った.この説明にはさらに「必要に応じて近隣の施設との統合も検討することが望ましい」と記載されていたことから,メディアなどがこの部分のみを取り上げ「病院を統廃合する方針が示された」という論調の報道を行った.リストに挙げられた病院の責任者およびその設置主体である自治体や組織の中には,これらの報道に反応して「厚生労働省を告発する」といった批判を行った例もあった.
このリスト公開に当たっては「いきなり公開を行うのはけしからん」というような意見も多々出されているが,公開のために分析されたデータはすでに厚生労働省あるいは各都道府県のホームページで公開されているものであり,誰でもそれを用いた分析が可能である.高度急性期・急性期の定義に関しては,病床機能報告から把握されるがん・手術・救急の病床当たり実施数に着目した定量基準がすでにいくつか提案されており,これについても誰でも分析を行うことが可能となっている.また,厚生労働省の関連委員会では,公立病院・公的病院のリストが公開されること,その分析の考え方について議論されている.さらに,病院名の公開は内閣で閣議決定された事項でもある.従って,本件で厚生労働省のみが批判にさらされるのは公平性に欠けるという印象を筆者は持っている.厳しい見方をすれば,各病院が公開されている関連委員会の議事録を読み,上記データを自ら分析するという作業を行っていれば,今回のような誤解に基づく混乱は最小限に抑えられたのではないかと思う.
厚生労働省がこのようなリスト公開に踏み切った理由としては,各施設が作成した「公的病院改革プラン2025」の内容が不十分であったことが指摘されている.このプラン策定に当たって,筆者はDPCやNDBに基づいて作成されている各種資料を活用し,データに基づいて地域の現状と将来,そしてその中での自施設の立ち位置を検討した結果をプランの記述に反映させることの必要性を繰り返し述べてきた.実際に,筆者らの教室は福岡県医師会,福岡県と共同で関連データの解析を行い,分析結果に基づく研修会も数多く行ってきた.それでも,データに基づく議論が遅々として進まない現状に直面しており,あらためて地域医療構想の難しさを実感している.
社会保障制度改革国民会議で永井良三委員が指摘したように2),わが国の場合,医療サービス提供体制の変革を米国のように「市場経済」に任せることもできないし,フランスのように「国の強い力」で強制的に行うこともできない.各施設が自施設の在り方を考えることができるデータを整備し,それに基づいて自主的に対応することしか方法がないのである.もちろん,国は診療報酬制度を介して間接的にサービス提供体制をコントロールすることはできる.平成30年度の診療報酬改定が「地域医療構想に寄り添ったもの」になっているという評価があることから,各施設はその対応ももちろん求められることになる.いずれにしても,各施設の情報分析能力が重要になっているのである.
そこで本連載では,厚生労働省および各都道府県が公開している病床機能報告のデータを用いてどのような分析が可能であるかについて,2回に分けて説明したい.1回目は病床機能報告データの概要と基本的な加工,2回目は加工したデータを用いた分析の例について筆者の私見を述べる.
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