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■はじめに:地域医療構想と慢性期医療
人口の高齢化は傷病構造を大きく変える.筆者らが報告しているように,すでに介護保険を利用している高齢者から多くの脳梗塞や大腿骨近位部骨折,肺炎などの急性期症例が発生している1).このことは急性期,回復期,慢性期という単純な区分で,現在の傷病構造を記述することが難しくなっていることを示している.また,筆者らは医療提供のパスについても,介護福祉施設に入所している高齢者の多くは,外来を除けば一般病床への入院以外はあまり医療を利用していないことも報告している2).すなわち超高齢社会においては,介護も含めて慢性期の医療の在り方が大きな課題となるのである.
他方で,筆者もその策定に関わった地域医療構想においては,慢性期の病床について医療区分1の70%を病床以外でケアし,また療養病床の入院受療率の都道府県格差を縮小するという前提で推計を行った.この推計自体はベースのところで現状の性年齢階級別・傷病別の入院受療率が将来も続くとして,それに人口推計を掛け合わせる方法で行ったものである.その意味で甘い推計になっている部分がある.全体では112万〜116万床になるという推計になっているが,他方で仮に今の入院受療率を前提とすると2025年に152万床必要になるという推計値も出している.仮に,現在稼働している病床が128万床程度だとすると約24万床不足することになる.そして上記の増加分のほとんどは医療区分1相当の高齢患者であるが,果たしてこれだけの数の医療区分1の高齢患者を病床以外で診ることができるのかが今後の重要な検討課題となる.
現在,各地で行われている地域医療構想調整会議では,主に急性期,回復期の病床の在り方の議論が中心になっていると聞く.地域によっては急性期,回復期の病床数の在り方をめぐって対立のようなものが生じている地域もあるらしい.筆者の個人的な見立てではあるが,各施設が自施設の患者の状況を時系列で冷静に分析することで,急性期と回復期を合わせた一般病床数は自然に落ち着いていくだろう.他方で,慢性期に関してはその在り方を計画的に考えないと,地域医療の現場に大きな混乱が生じる可能性がある.単純に地域医療構想で推計された数字を達成することを目的にしてしまうと,政策を誤ってしまう.
本稿では,次回以降の慢性期医療の具体的事例を紹介する導入として,地域医療構想策定に際して提供されているデータを基に各地域で慢性期医療の在り方を考えるための視点について論考する.
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