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■はじめに
2015年6月に厚生労働省から地域医療構想策定のためのツールが提供され,7月,8月と2回にわたり都道府県および医師会関係者を対象としたツールの使用方法に関する説明会が開催された.これを機に,各都道府県で地域医療構想の策定に向けた具体的な検討会が開始されている.6月15日に公開された病床機能別病床数の推計結果の基礎となったツールを用いた二次医療圏(構想区域)別の病床数推計などの資料がすでに議論の場に提出されており,都道府県側の関係者の間では,そうした数字を出すことで年内には地域医療構想の策定が終わるのではないかという楽観的な見方もあると聞く.しかしながら,地域医療構想の策定に関しては,その前提となる2025年,2040年の傷病構造に関する共通認識が不可欠である.そして,それに対応した医療提供体制をどのように整備していくかを,当該地域の医療機関自らが考え,そして実行に移していくことが今回の構想の特徴である.こうした難しい作業を短期間で行うことは不可能であり,数年のスパンで考えるべきものであるだろう.地域医療介護総合確保基金の活用に関しても,こうした中期的過程に対応したものであることが望ましい.例えば,地域医療計画を医療提供体制改革に活用しているフランスでは地方医療庁と個別の医療機関が複数年契約を結ぶことで後者が中期的に構造転換を行うことを可能にしている.
地域医療構想は策定することが目的ではない.それは手段であり,行動計画になっていなければ意味がない.行動計画であるためには,地域医療構想に記載された内容が当該地域の個別の医療機関にとって経営方針を考えるための指針になっていることが求められる.構想策定の事務局機能を担う都道府県関係者は,これまでの地域医療計画がなぜ十分に機能しなかったのかを改めて検討する必要がある.
地域医療構想の本来の目的は病床を削減することではなく,2025年の傷病構造および医療・介護を担う人材の状況を考慮した上で,各地域の住民の安心を保証するための医療介護提供体制を構想することである.低経済成長下の少子高齢化という厳しい現実を踏まえて,各地域の医療をどのように保証していけばよいのかということを,医療関係者が主体となって構想していくというのが今回の事業の大きなポイントである.また,地域医療構想の策定プロセスは,医療の現状を関係者に理解してもらい,医療に対して適切な理解とファイナンスを獲得していくための絶好の機会であると筆者は考えている.その意味でもデータを開示し,そしてオープンな議論が行われなければならない.
本稿では,地域医療構想の意義と考え方について改めて論考してみたい.
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