医療への提言・7
医療のタテ社会的要素(I)
水野 肇
pp.51-54
発行日 1977年1月1日
Published Date 1977/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206125
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医学と科学の距離
「現在の社会で,いちばんうまくいっていないのは医療と教育だ」という意見がある.もちろん,医療と教育だけがうまくいっていないのではなくて,特に目立つという意味である.教育のほうはともかくとして,医療には世界中が頭をかかえている.しかも,それは,医療費の問題だけではなくて,医療そのものについて,医師にも国民にも不満が大きいといえる.この原因はいろいろとあげられているが,実は「医療」そのもののもつ本質的なところにあることは,意外に指摘されていないように思う.
「医療は医師対患者の人間関係の上にのみ成立する」といわれる.このことは,医療問題を考える場合,極めて重要なことだと私は思う.かっては,病気がなおったとき,「あの先生になおしてもらった」といった,しかし,いまは違う.「あの薬が効いた」という.薬という科学に対する信頼だといってしまえばそれまでだが,それが逆の目に出ることもある.私たちは医学を科学と考え,たいていの病気は医学という名の科学によって解決されると思っている.だから,入院したり診療を受けたりしても,十分になおらないときには,もっと優秀な医師にかかればなおるのだと思う.しかし,実際には転々と医師を変えてみたところで,なおらないものはなおらないというのが現実である.
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