病院の窓
病院て何だろう
砂原 茂一
1
1国立療養所東京病院
pp.17
発行日 1977年1月1日
Published Date 1977/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206113
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患者中心看護関係の雑誌などを見るとしばしば「患者中心の看護」という文句に出会う.ところが医師向けの雑誌では「患者中心の医療」などというスローガンにお目にかかったことはない.今さらそんな宣言をすると今まで患者を忘れていたことを告白するようなもので,いささかスネに傷もつ身として気がひけるということであろうか.「患者中心の看護」という言葉にしてからが今までは看護婦中心であったことを進んで告白し悔恨の情を表明したものとも思えない.むしろ医師中心の医療に対する日頃のウップンをいくらか上品にかつ遠回しに言いあらわしている趣きがないではない.病院がお金もうけのために存在するのではないことを一応自明のこととしてしばらくおいて,いったい病院とは何をするところなのだろうか.病気を治すための施設には違いないけれども,病院でなければできない高度に科学的な診療の場と考えていいのであろうか.それでは患者中心ではないと批難されることになるのであろうか.
癒しと支持と慰め「ときに癒し,しばしば支え,つねに慰む」というのは昔トルドー療養所の患者たちが所長のトルドー個人に捧げた讃辞であるが彼らが病院に期待していたものを言いあらわしていると考えてもいいだろう.ことに当時は病院に入っても病気そのものが治ることをあまり期待できなかったが,そのような場合でも苦痛をやわらげ生きることの支えが得られたし,それも難しい場合でも病院に入っていれば慰めだけは与えられたということであろうか.
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