病院史のひとこま
‘人間ドック’ことはじめ—昭和29年のできごと(1)
守屋 博
pp.103
発行日 1972年10月1日
Published Date 1972/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541204814
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病気でないことを証明するむずかしさ
毎日,全国で何千というドックベッドが満床になり,しかも,その何倍という待機者がドック入りを待っているという盛況である.病院にとっては,安定した利用者の確保という点で,その経営上たいへん貢献している.WHOは,病院の予防医学活動への進出ということで橋本日病会長の表彰の一理由にあげた.しかし人間ドックがはじめて行なわれたのは,そんな古い話ではない.
元来病院の活動は,苦痛をもった患者に正確な診断を与え,病根を治療することに伝統的に限定されていた.病気のあることを証明するのは楽だが,ないことを証明するのはたいへんな手数を要するし,場合によれば不可能でさえあった.病院では好まざる客であり,開業医のもとに追いかえされて,顔色と打診で‘心配ないよ’と無責任に安心させられるのが通例であった.しかし医学の進歩はいろいろの検査法を開発し,それなくては精確な診断ができなくなり,また患者の医学常識の普及によって,そのような要求がしだいに増してきた.
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