特集 病院建築
精神病院の設計
伊藤 誠
1
,
栗原 嘉一郎
2
,
野村 東太
2
,
小林 健司
3
1千葉大学工学部建築学科
2東京大学工学部建築学科吉武研究室
3電々公社建築局設計課
pp.939-956
発行日 1959年12月1日
Published Date 1959/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541201594
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I.はじめに
従来の精神病院の多くが「病院」というよりはむしろ「収容所」と呼ぶにふさわしいものであつたことは,既にしばしば指摘されている。最近は医学の進歩にともなつて,病院についての考え方も改まつてきたことと,組織だつた管理がひろく発展してきたこととによつて,その姿も急速にかわつてきた。しかし,いまだに200畳とか300畳とかいう大部屋の片隅に,ふとんを山のように積み上げて,何十人という患者が落着く場所もなくあちらこちらにうずくまつているような例がみられることから考えれば,まだまだ相当に問題が残つているのではないかと思われる。第一,このように殺風景な大空間が,かりそめにも病室と呼べるのだろうか。「このような大部屋があれば,映画会や演芸会ができて大変都合がよい。」などといつた意見の基調をなすものは,まつたく収容所としての認識以外の何ものでもない。
しかし貧弱も度を越して余りにもひどいこのような施設をもつて事足れりとする思想はもはや姿を消そうとしている。むしろ厳しい制約条件をも乗り越えて,少しでもレベルを改善向上させようとする努力が各方面で地道に進められつつある。だが,ここで問題になるのは,従来の努力を施設的・建築的な面に限つてみた場合,やや本質をはずれた些末なことがらにとらわれすぎていた傾ぎがなかつたかということである。
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