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社会保障制度は広狭種々に解せられているが,これを極めて狭く解釈しても,公的扶助制度と社会保険制度の二部門をその内容として居る。そして多くの国においては,その公的扶助制度においても医療扶助が行われ,社会保険制度のうちにおいても疾病保険又は健康保険の名を以て医療保険が存在して居るのが普通である。わたくしの知る限りにおいて,このことの例外をなすものはアメリカである。即ち1935年に樹立され,その後幾度か拡張されて現在行われて居るところの社会保障のプログラムのうちで,公的扶助は従来,老令者盲人及び他人に扶養されて居る児童に対してのみ与えられて居たのであるが1950年の改正で,その扶助対象を医療費による困窮者(Medical Indigent)に拡張したのであつた。ところが社会保険制度については,今日なお老年及び遺族保険(Old Age and Survivorship Insurance)と失業保険(Unemployment Insurance)の2種に限定し,社会保障としての医療保険を欠いて居る。
ところがイギリスでも,フランスでも,ドイツでも,わが国でも,その公的扶助制度において扶助対象の一として医療が挙げられて居るうえ,社会保険制度の重要な一環として健康保険乃至疾病保険が行われて居る。この事実は,国民の生活を脅かす原因のうち疾病従つて医療の費用というものが如何に重大であるか,それによる悩みが如何に深刻であるかをもの語るものである。 アメリカでこのような医療についての保険制度を欠いて居ることは,同国には任意加入の医療保険制度が民聞に自然発生的に広く行われ,その加入者の総数は今や60,000,000人を超えると一いラ状態で,社会保障としての医療保障を或る程度代行して居るからであると見られるが,そのアメリカでさえもAFLやCIOを中心とする労働組合は,社会保障としての医療保険制度の樹立促進のために運動して居る。このことはアメリカのような生産力が強大で,一般民衆の生活水準の高い国においてさえも,医療費については,国が責任を負うところの社会保障として行うのでなければ,国民の大部分(特に労働階級に圏するもの)はその負担に堪えないという現実の姿を示すものである。
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