連載 病院管理フォーラム
■医事法・12
医療行為(不作為)と因果関係
植木 哲
1
1千葉大学法経学部法学科
pp.358-360
発行日 2008年4月1日
Published Date 2008/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101173
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
●不作為義務違反と因果関係
前回のルンバール・ショック判決は,腰椎麻酔の実施という医師の作為(治療行為)と結果(被害)との因果関係に関する最高裁の説示であり,問題点の解明でした.この原則は,医師が医療行為を行わなかった不作為義務違反にも同様に妥当します.治療行為の多くは,手術に代表される医師の行為=作為に関連しますが,その前提となる診断や検査等においては,作為のみならず不作為が問題となります(もちろん治療行為や投薬が行われなかった場合も含まれます).このように医療行為には作為と不作為があり,医事紛争の現れ方においても,両者はほぼ同数の割合で生じています.
不作為義務違反の責任追及においては,医師の不作為と結果発生との因果関係の存在が必要です.前回述べたあれ(原因)なければこれ(結果)なしの原則をそのまま適用すると,ここでは前提となる「あれ」が存在しませんから,理論的には因果関係の証明ができないことになります.そこで不作為の「あれ」に代わる行為(作為)が論理的前提として存在している必要があり,「あれ」は規範的な観点からのみ措定できることになります.言い換えれば,当該事件においては「あれ」に代わる作為が行われていれば,「これ」は生じなかったであろうとの因果の関係が必要となります.それだけに,被害者にとっては証明が困難となるのです.また,「あれ」が行われていても死亡という結果が発生したかどうかは定かでありませんから,全損害の賠償は不可能となり,損害の範囲を限定する必要があります.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.