特集 病院空間とまちづくり
高齢期における医療と地域コミュニティ
井上 由起子
1
1国立保健医療科学院施設科学部施設環境評価室
pp.833-837
発行日 2007年10月1日
Published Date 2007/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541101031
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高齢になると急性期医療と高齢者ケア,双方との接点が増す.両者の提供システムは大きく異なるので,一括して地域コミュニティとの関わりを論じるのは難しく,この点を整理することから始めてみたいと思う.
選択と集中
自宅の横に都内有数の急性期病院がある.隣に住む高齢の叔母が腕に痛みを覚えて外来を受診したところ,小一時間ほど離れた場所にある別の急性期病院を紹介され,夏の終わりに簡単な手術を行った.在宅医療に熱心なクリニックが近くに開設したこともあり,わが家は横にそびえ立つこの病院を治療目的で利用することはほとんどなくなった.けれど,接点は多い.叔母は地域活動の打ち合わせで喫茶を利用するし,院内コンビニや院内郵便局にも立ち寄る.病院主催の地域まつりは楽しみの1つでもある(写真1).また,敷地内の庭園も素晴らしい.さらに,高額ではあるがここの人間ドックはかなり魅力的だ.いずれは息子が通う地元の小学校で,医療に関する教育活動をしていただけるだろう.もちろん救急や災害の際には,すぐ駆け込めるという安心感もある.
一方,手術をお願いした病院とのつきあいはどうなるのだろうか.たぶん,完治によって関わりはなくなる.わが家は適切な医療を受けることのみをこの病院に求めている.大都市の急性期病院における患者と病院との関係は,多かれ少なかれそういうものではないかと思う.
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