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本稿の第一筆者は,7年前『医療紛争防止論』(日本医師会 医療安全推進者養成講座 テキスト)の中で,英国は1996年,発生した医療苦情・事故を迅速に解決できるように,local resolution,independent review ,health service ombudsmanの3段階からなる制度を確立させるとともに,各医療機関は,患者からの調査等の申し出に対応する仕組みづくりを行ってきたことを紹介した.その後,『医療紛争―メディカル・コンフリクト・マネジメントの提案』(医学書院)の中で,交通事故それ自体と,いわゆるひき逃げの違いについて言及し,初期対応の意義を理念的に示した.また,その頃から,――医療事故をゼロにしなければならない,という指摘さえなされる中で――あえて「事故はゼロにはできないが紛争はゼロにできる」と唱えるとともに,この問題に関心を持つ,臨床医やリスクマネジャーの方々と,初期対応の具体的な方法について検討を始めた.
今日,医療事故後の対応に関しては,ときどき雑誌等でも関連原稿が見られるようになった.この事故対応においては,事実の確定から始まる,初期対応が極めて重要となる.というのは,被害者である患者は,常に事実を知らされることを求め,また事実が明らかになっていなければ,その後のいかなる取り組みによっても,事故の真の解決(紛争が生じている場合は,その紛争(事故)の真の解決)はありえないからである.しかし,わが国においては,初期対応については必ずしも十分な検討が進んでいない.そこで本稿では,ある医療事故事案に対する初期対応の内容・手順を例示することによって,適時適切な初期対応を実施するためには,医療機関内における事前の検討の積み重ねが不可欠であることを示すこととする.
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