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虎の門病院泌尿器科小松秀樹部長の危惧した「医療崩壊」は現実のものとなりとどまるところを知らない.彼は“最も大きな問題は,医療は本来どういうものかについて患者と医師の間に大きな認識のずれがあることである”としている.“具体的対策を考える前に総論で認識を一致させる努力が必要であり,一致できなくとも,どのように認識が違うかを互いに理解する必要がある”と述べている.医療事故とその後の対応で患者さんの医療に対する不信を強めたことは疑いない.これまでの医療の安全対策や事故後の対応などには大きな問題があった.今回『医療事故初期対応』という本が出された.本書の「はじめに」に“医療事故が発生した場合,それが真に解決されるか,あるいは紛争・訴訟へと発展するかは,行った医療行為に過失があったか否かということよりも,事故の現場保存・原因究明から始まる一連の初期対応が適切に行われたかどうかに大きく影響されるように思われる”と記されている.このことは疑う余地はない.
不幸にして生じた医療事故に対して最も重要なことは患者さんを救うことである.全病院を挙げて患者さんを救い,命にかかわることであれば救命し,障害を残さないようにしなければならない.救急救命コール,CPA処置法,救命対応チーム,救急セットなど常に整え十分な訓練を行っておく必要がある.緊急処置後もチームにより治療を行うことが重要である.そして,本人,家族および周辺へ事故に関する事象,原因など真摯に述べ対応する必要がある.事故当事者への対応も忘れてはいけない.事故によっては警察,外部への報告が必要となり公表する場合がある.このためには現場保全と事故の事実認証を行い,原因分析が必要である.さらに,責任に対する謝罪,補償,再発防止策を取らなければならない.これらは対応部署が適確に機能していなければならない.本書には医療安全管理者が行うべきこれらの事項をガイドライン的に示されている.そして,その各節はその道の第一人者により現時点で最も新しい知見が記されている.
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