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わが国の平均寿命は世界のトップレベルを維持しているが,急速な高齢化とともに生活習慣病の罹患率が年々高くなり,今後,国民が健康で長生きできるかは疑問である.食生活の欧米化や生活様式の変化が影響していることは言うまでもなく,各種疾患の発症予防から治療まで栄養管理の持つ意味合いは大変重要なものとなっている.特に,疾病構造の変化や疾病のしくみが解明されることにより,個々人の病状・病期により不足している栄養成分が違うこと,また,クローン病に代表される炎症性腸疾患などでは,使用できる食品が個人により異なること,さらに,移植など術後管理の概念についても,術前あるいは術直後の栄養状態を良好に管理することが予後に大きな差違を及ぼすことなど,栄養治療の考え方に変革が起こっている.すなわち,入院時提供される食事も「術後管理のための段階的な食事」,「急性疾患に対する庇護的な食事」,さらには「長期にわたる慢性疾患への食事」といった疾患別により分類された食事を一律に提供するのではなく,「個人の病状・病期に応じたその時に必要な食事」を提供するために,ひとまとめにされていた食事管理の概念が払拭されることが,オーダーメイド医療(栄養治療)への第一歩であると考えている.すなわち,医師より指示された栄養量の食事を単に提供するのではなく,臨床現場において患者の栄養状態を把握・評価し,現時点で必要とされる,また,提供できる食事形態とは何かを,臨床の場で患者を診て判断することが必要であると考えている.
例えば,摂食行動に問題のある患者へ「嚥下食」を提供する場合,これまでは,医師の指示により一般的に誤嚥しにくい食品を一律に提供していたが,担当管理栄養士制を導入し,医師や看護師,言語聴覚士との連携を行うことにより,患者個々に合わせた嚥下訓練食や嚥下造影検査食などの提供が可能となった.すなわち,これからの医療現場では,各専門職(医師,看護師,管理栄養士,薬剤師など)がそれぞれの立場で,患者の病態,病状などを把握し,情報交換を行うことが必要である.場合によっては,病棟専任栄養士を配置することにより,診療科特有の患者の栄養管理状況を把握し,患者に合わせた栄養治療を行うことが可能となり,ひいては入院日数の短縮ならびに患者のQOLの向上に貢献できるものと考えている.
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