連載 医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・6
虐待防止委員会の活動から見るMSWの専門性
加藤 雅江
1
1杏林大学医学部付属病院医療福祉相談室
pp.918-921
発行日 2006年11月1日
Published Date 2006/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541100412
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今でもはっきりと思い出す光景がある.病院の長い廊下を洋服が乱れるのもかまわず一心不乱に子どもを引きずっているお母さんの姿.子どもに声をかけるでもなくただただ前に進もうとしているお母さん.子どもの顔に表情はなく視線が合わない.今ほど児童虐待についての認識が社会全体にない 10 年以上前に面接した親子が相談室から帰る時の光景である.その事例の依頼を医療福祉相談室に持ち込んだのは小児科の医師であった.依頼の内容自体は漠然としたものだった.院内スタッフみんながなんだかわからないけど気にかかる親子だった.看護師と分厚いカルテを見るとそこにはたくさんの,今思えば SOS が発信されていた.問題が明確にならないまま,でも漠然とした危機感を持ち,地域の関係者とカンファレンスを繰り返していた.その後親子の転居によって当院への受診は途絶え,親子の行方はわからなくなってしまい,あっけなくこの事例は終了してしまった.そしてしばらくの間,この親子のことを思い出すことはなかった.
あの光景を目にした時の違和感,面接中に感じたわからなさの意味するものを私はずいぶん後になって気づくことになった.カルテから発信されていた SOS の意味も.
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