連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第146回
ホスピス二題
宮城県立がんセンター 緩和ケア病棟
藤木 隆男
1
1株式会社藤木隆男建築研究所
pp.265-268
発行日 2007年3月1日
Published Date 2007/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541100305
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「ホスピス」あるいは「緩和ケア病棟」は,治療による快癒が見込めない末期がん患者などが,医療的処置を最小限に抑え,家族とともに少しでも人間らしい日々を送ることができる場所,「終末の家」であるとされてきた.しかし現在のそれは,患者が可能な限り長く自宅で終末期を過ごすことを支える(疼痛緩和などの処置のための短期滞在などの可能な)中間施設であり,「家での死」をサポートする地域的な医療拠点であるという考え方に移行しつつあるという.そのいずれにせよ,そこは自分の死と向き合いながらの,静かで充実した生活のための「時間/空間」でなければならない.およそ学校や病院,極端に言えば監獄にいたるまで,近代社会の所産であるあらゆる全制的施設;INSTITUTIONは,その目的のための効率のよい集団行動を前提に計画されてきた.しかしここに来てようやく「施設」であることを脱して,高いQOLを求めることが可能な「より自然な生活空間」としてのあり方が問われ始めているということであろうか.
2005年1月現在,緩和ケア(ホスピス)病棟を有する病院は,140施設/2,649床にのぼるという.相当な数字のようであるが,年間数十万とも言われるわが国の全がん死者数から言えば,緩和ケア病棟においてよりよいケアを受けることのできる人の割合は未だ余りにも少ない.そのことが,緩和ケア病棟が当面増えつづけ,また,まだまだ必要とされる十分な理由である.
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