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科学としての “命,Life” をめぐる研究の進歩は,周辺の科学技術を集約し,今や,かつて歴史上にもないほどの巨大なライフサイエンスという潮流となりつつある.すなわち,18~19世紀の 【産業革命(エネルギー)の時代】,19~20世紀の 【物理(ものの究極像の解明)の時代】 を経て,21世紀の 【生命(生命の究極像の解明)の時代】 を迎えつつある.物理の時代と,生命の時代を貫く思想と方法論は,要素還元論であり,その集大成が生命のロゼッタストーンともいうべき全 DNA 配列の決定と,それに引き続くゲノム時代の創出である.しかしゲノム解析からの人間解明には限界もみえ,最近はミクロ(遺伝子)から,マクロ(固体)へと向かう遡行性の学問分野が次々に開発されつつある.それらは網羅的方法であり,“塊,すべて” という意味の,○○オーム(-ome)と命名され,その学問を・・・ミクス(-mics)と呼ぶ(例:プロテオーム,プロテオミクス).これらはライフサイエンスのもつ限りなく “光” の面である.これらの進歩の結果,ヒトは生存を時間的,空間的にも著しく延長拡大させつつ,地球の春を謳歌するという構図を創った.
しかし21世紀を迎え,急速に生命への賛美歌は,レクイエムに変わりつつあるというのもまた事実である.先進諸国では,どこの国も急激な高齢化社会と激増する生活習慣病,あるいは突発する地球規模の新興・再興感染症のブレイクアウトに怯え,環境の劣化に直面し,現代人は,多かれ少なかれ,自分自身や家族の今や,将来の生存に対する不安を抱きつつある.これがまごうかたなき「ライフ」を巡る影の部分である(図1a,b).本稿ではこれらを枕詞として,マクロ的疾病論を私論的に展開する.
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