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東京大学の医療政策人材養成講座が第1期を終えた.医療従事者,医療政策立案者,患者支援者,医療ジャーナリストという立場が異なる4者を受講生とし,その4者が “同居” する濃密な空間を創った.その結果,受講者の医療改革への動機付けを高め,斬新な行動計画を生むことができた.一年目の成果と今後の展望をご紹介したい.
■医療政策人材養成講座の狙い
東京大学の医療政策人材養成講座は2004年10月に開講し,2005年8月末に1年間(11か月)の第1期を終えた.10月からは2期が始まっている.当講座の狙いは,文字どおり,わが国の医療政策を立案しそれを実行する人材を養成することである.英文では講座名を “Health Care and Social Policy Leadership Program” とした.“Leadership” という言葉を入れたことに込められているのは,この講座においては,医療政策が机上の空論として語られるのでなく,受講生が自ら医療界の新しいリーダーとして医療改革を牽引する人になろうとしてほしいという考えである.
医療に問題があるのはとっくにわかっている.今年9月の総選挙の際に大手新聞社の世論調査にも見られたように,医療・福祉問題が国民の最大関心事にもなっている.すでに,どこに問題があるかの議論も出尽くした感がある.改革案もたくさん出されている.しかし,現実はなかなか改善されようとしていない.今,必要なのは,具体的な改革案を実践しやり遂げること,あるいはそのきっかけとなる論考を社会に問うことではないか….また,かつてのように乳児死亡率を削減するとか,感染症の蔓延を防御するといった方針には国民のどんな立場からも異論は少なかった.しかし,経済成長が停滞すると,限られた予算をどのように分配するのかという選択の議論が増えてくる.価値観と選択に絡むことは,行政官僚が独りで決めることもできず,国民が行政に放任することもできない.そんな認識が背景にあった.
この講座のこうしたミッション(使命)をうまく表現するキャッチフレーズはないものか.開講前にスタッフみんなで辛吟していたところ,この講座のプログラムを統括(プログラム ・ディレクター)する高本眞一(東大医学部教授)の口から,「つまり,『医療を動かす』ということだね」という言葉が出た.それ以来,ことあるごとに「医療を動かす」という原点を忘れないように心がけている.ポスターのメインコピーにもこれを使った(写真).この言葉に引かれて受講を希望したという人も少なくないのは,「論評はもうたくさんで,必要なのは行動と実践だ」という認識が,かなり広く共有されているからだろう.また,ミッションステートメントを表1のように定めたが,その筆頭にもこの言葉を採用することとした.
本講座は「医療を動かす」ことを使命とする.ということは,使命が「医療を批評する」「医療を議論する」といったこととは異なると同時に,こうしたことだけでは不十分と考えるということだ.行動指針には,「“一人称” で語る」「“結果” を生む」といった項目を入れた.一人称で語るということは,批判や批評で終わるのでなく,具体的に実行可能な提案をし,自分もできることを実践するというスタンスを重視するという意味である.結果重視というのは,医療を良くするためにどれだけのインパクトを与えるかを自己評価視点として持つということだ.「何も変わらなかったけど,頑張ったから仕方ない」といった自己満足に終わらないようにしたいという自戒である.「医療を動かす」という意識づけは,すべての受講生に深く浸透したということまではできないものの,後に紹介する受講生の受講体験談からしても,かなりの人に植え付けられたことは間違いない.
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