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はじめに
近年の医学,医療技術の進歩はきわめて急速である.この進歩はそれ自身が科学技術として社会的価値があることは間違いない.しかし,一方この進歩がもたらしている他の側面にも注目しなければならない.その側面とは医療技術者の専門化である.もはや内科と外科が両立しない専門分野であることは明らかであるように,最近では内科の中でも,循環器,呼吸器,内分泌などといった専科の標榜は一般的になった.外科においても脳神経,胸部,消化器といった専門分化は,大学や専門病院などではあたりまえのことである.最高の医療技術を修めようとする医師は必然的にこのような,あるいはさらに細分された領域の専門家になる.また昔は医師と看護婦で行なわれていた医療の中に,衛生検査技師,臨床検査技師,X線技師,理学療法士,作業療法士,視能訓練士などの多くの職種の人々が参加することになった.このようにして,専門化は現在すでにきわめて進んでおり,このどの職種の人々が欠けても,病院の機能は維持できないところまできている.そしてこの傾向はさらに進むことはあっても逆もどりすることはないように思われるのである.
一方医療の目的は,個人のケア(care)にある.個人に対するケアは包括的(comprehensive)でなければならない.しかるに専門家は往々にして木を見て森をみない傾向がある.そのために個人に対するケアが断片化してくる.
このような問題に対処するためには,それぞれの専門家がそれぞれの能力とその限界をはっきりと認識してお互に協力する必要がある.つまりチームを組むことである.理想的なチームは,スポーツの例にみるように,各自が自分の役割をはたすのに全力をそゝぐだけでなく,お互にカバーし合うことである.また高度の連繋プレーを可能にするものは,日頃の訓練とコミュニケーションである.
医療チームにおけるコミュニケーションはその事柄の本質からきわめて重要である.コミュニケーションには基木的なルールが必要である.医療チームのコミュニケーションの最大の場は病歴であり,そのため新しいルールで書かれた病歴がPOMR(Problem Oriented Medical Record)である.
POMRははじめL.L. Weedという,アメリカのケース・ウェスタン・リガーブ大学の内科医によって主張された.その後臨床教育,CPC回診,カンファレンスの持ち方,医療チームの形成の中心にこの考え方がとり入れられ,その意義は単に病歴の書き方のみにとどまらない医療の一つの新しいシステムであるという意味で,J.W. HurstらはこれをPOS(Problem Oriented System)と呼んだ.POSはその後医療の内部からの革新運動として発展したが,またそのような側面を持つために,多くの論議も呼んでいるといえよう.以下,POSとは何か,またその意義と問題点について述べる.
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