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はじめに
音楽を治療に応用するという概念は,けっして新しいものではない.太古から人は,音楽が人間に与える効果を知っていた.未開人は人間をとりまく精霊との交流を,音によってなしうると信じていたから,治療師は病人に宿る精霊が反応する音や歌を見いだそうと試みていた.また,ある時代には,音楽は神から出て神へもどる贈り物であり,それは人間の幸福と健康のために貢献するものである,と考えられていた.反面,サタンも音楽を利用できるものであるとして,音楽の‘治癒的’‘有害’の力の2面をみていた.長い歴史の中でこれらの価値は多く利用されてきたが,科学的な分析のもとに,積極的・合理的に治療の場面で役だたせようという考えから,精神身体医学の補助療法となり,治療の手段として,音楽療法が発展してきたのは,全く新しいものであろう.
日本においては,そのような考え方は,ほとんど起こらなかったものと思われるが,最近この分野に対する大きな関心が,急激に増加しつつある.これは,英国の‘The Society for Music Therapy’の設立者であるJ.A.Robson夫人によって,ひき起こされたと言っても決して過言ではない.夫人は,1967年と1969年の2度にわたって来日し,多くのデモンストレーションとしての音楽セッションをもち,また多くの講義を通じてわれわれにその理論と技術を残していった.1969年の来日の際に夫人のアシスタントとして,ほとんどすべての音楽セッションに参加する幸運に恵まれた私は,夫人からすばらしい贈り物をいただいた.それは,この分野が全く新しいものであるために多くの困難性を含むが,最も高貴な分野であると信ずることができたことである.私は,夫人の日本滞在の3か月間に学んだものと手紙を通しての貴重な示唆に基づいて,この1年間多くの音楽セッションを持ち,子どもへの接触のしかた,音の使い方とそれに対する反応およびその記録などについての研究をしてきたが,多くの場面で,夫人の教えを確認することができた.私のほんの小さい経験の範囲内で理解した夫人の教えを紹介する.
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