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はじめに
精神障害者に対する作業療法が組織的に行なわれるようになったのは,1924年Simonがドイツの精神病院で行なって以来であり,その後各国に普及し,現在では,なんらかの形で作業療法を行なっていない病院はないといってもよい。作業療法は,これを広義に解釈すれば,生活指導,レクリェーション療法および狭義の作業療法(仕事療法,以後たんに作業療法とよぶ)をふくみ,本療法は今日では精神病院におけるもっとも重要な治療法の一つとして深い関心と努力が払われている。なかでも狭義の作業療法は,それのもつ治療的意義はきわめて大きく,精神的および身体的の両面から効果があるといわれている。もちろんこの作業療法と生活指導やレクリェーション療法を切りはなすことはできず,基礎的な生活指導を行なった上で作業療法を行なうことはいうまでもない。
このような精神医学における作業療法は,根本的にはコミュニケーション過程であり,感情や思考の伝達に活動を用いる,いわば非言語的コミュニケーションの使用と関連している。したがって現在多くの精神病院でとり入れられている作業療法は,理想的には,患者の性,年齢,性格,生育症,学歴,職業,精神身体症状や作業指導員の性格,技能,作業療法への理解や対人関係などを考慮して,その患者に適した作業種目を選択すべきであるが,実際には困難な点が多い。
わが国では,外国のように正式に教育をうけた作業指導員がないことや設備不足,精神科医や臨床心理学者,看護婦,看護員の不足,作業種目の少ないこと,さらに一般社会の精神障害者への無理解もあって,作業療法を医療の一つとして位置づけるには,まだまだほど遠い感じがする。戦後,作業療法が活発に行なわれているとはいえ,まだ体系化されていない。作業療法を精神病治療法の一つとしてみるとき,われわれは,ただばくぜんと患者の作業を処方すべきではなく,前記の諸条件を可能なかぎり考慮して処方箋を与えねばならない。今までに作業療法の効果判定に関する研究報告はたびたびなされているが,作業処方をいかにするかの研究はあまりない。
この作業内容の決定は作業療法の成否に関係する重要なものであるにもかかわらず,非常な複雑さのために,現状では黙視され,多くの精神病院が効果判定の検討に力を注いでいるありさまである。われわれは作業療法の処方をより合理的かつ客観的に行なうための試みとして,表1に示すように,患者を各方面から多角的に検討する目的で作業療法種目選定カルテを試作し,それを用いて,作業処方を出し良い結果を得ているので報告する。
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