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4〜5年前であつたか,全国の大学病院の耳鼻咽喉科への入局者が全部で40数名とかで問題になつたことがある。最近は医師の過剰時代を迎えつつあることを学生が敏感に感じとり,耳鼻科への入局者が少しずつ増えつつあり,大学によつては10名近くも入局する所もあると聞く。しかしごく最近経験した話であるが,医師国家試験に合格した若い2人の医師が,本人達は耳鼻科に入局する意志をかためたのに,まつたくの素人である父親から「耳鼻科医なんかになつてもろくな患者しか来ないぞ」とか「やはり医者になるのだつたら内科医か外科医に限る」とかいわれて反対されたという。このうちの1人は本人の意志もかたくすでに耳鼻科医になつているが,もう1人は耳鼻科医になることを断念して内科医になるという。
大分昔の話になるがすでに一流の耳鼻科医になつている友人が,下宿のおばさんに耳鼻科を専攻することにしたと話した所,そのおばさんば「耳鼻科なんかつまらないからおよしなさいよ。癌の研究者におなりなさいよ」とかいわれたという話を聞いた,「耳医者,眼医者,歯医者は医者の仲間ではない」などという言葉もあるということも耳にする。どうして素人の人に耳鼻科はつまらないというように映るのであろうか。ほんとうに耳鼻科はそれほどつまらない科なのだろうか。私自身は現在大学病院に働いていて,耳鼻咽喉科学ほど範囲が広く奥行も深く,患者の数も種類も多彩なものはないように思う。耳手術,頭頸部外科,神経耳科学,聴覚,音声言語,アレルギー,小児耳鼻科等々枚挙にいとまがない程興味深い領域が多い。にもかかわらず外部から表面的にみると,やはり蓄膿と外耳炎・中耳炎で代表される科で,小さな穴ばかりのぞいているつまらない科にみえるのかも知れない。
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