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I.はじめに
耳鼻科医がもつとも悩まされる課題の一つである耳鳴の治療に関しては,従来から多数の報告がみられ,その内容は薬物療法,注射療法,手術的療法,放射線療法,理学的療法など,きわめて多種類1)にわたる。これらのなかてもつとも有効とされてきたものは,いわゆる血管拡張剤の使用であろう。
血管拡張剤の耳鼻科領域での応用は,単に耳鳴にとどまらず,感音系難聴や眩暈,さらに神経麻痺,神経痛の一部にもおよんでおり,薬物の種類も亜硝酸塩,塩化アンモン,硫酸マグネシウム,重曹水(Meylon),papaverine hydrochloride(Papaverine),nylidrin hydrochloride(Verina),isoxsuprine hydrochloride(Duvadilan),butyl-sympatol(Vasculat),cyclandelate(Capilan),adenosine(Boniton),adenosine-triphosphate(ATP),nicotinic acid(Niclin),rlicotinamide(Niamide),meso-inositol hexanicotinate(Hexanicit),euclidan®(Euclidan),histamine phosphate(Histamine),およびKallikreinなどと多数1)2)8)である。
さて耳鳴に対する血管拡張剤の効果を文献に求めると,一般に短期投与の成績が多く,また有効率は30〜60%とするものが多い1)4)。しかるにその薬効理山は明らかではなく,内耳または脳幹部の血流障害の改善に由来するとの推測がなされている2)にすぎない。
もし真に血管拡張剤が耳鳴に対しご有効であるならぼ,その事実はきわめて重要である。それは一面において,その有効理由を正すことが,今日なお不明である耳鳴の本態の解明に対して,大きな示唆を与えずにはおかないからである。しかしその前に,血管拡張剤の耳鳴への有効性について,もう一度吟味してみる必要はないであろうか。過去の報告ではこの吟味が,十分でなかつたように思われる
本論文の目的とするところは,血管拡張剤の耳鳴に対する有効性が,果してどのように評価されるべきものであろうか,という点について再検討することにある。この目的のために血管拡張剤としてduvadilanを取り上げ,これが耳鳴に対する効果を,偽薬使用による比較試験7),の立場から検討してみた。あわせていわゆる偽薬効果というものが,薬物効果の判定上どの程度に考慮されねばならないか,という点についても考察した。
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